まいおぼれまいとして居る人達の心はそんなにはっきりとは分らない。
 でも幾分かは分る。知っても居る。
 生活の困難な世の中ではなるたけらくで人のうけもいい仕事をしたいのは人間として又あんまり体をつかう事のきらいな今の人間としては必[#「必」に「(ママ)」の注記]して無理ではあるまいと思われる。
 けれ共芸術にだけはそう云う思いを持って親しんではもらいたくないとどんな時にでも思って居る。
 只その呼名をきいただけで顔が熱くなるほど真面目に私が愛する芸術をよごさずに置きたいと思う。
 ことに文学の様なものはどれだけ人間の生活に大きな影響をおよぼすかははかり知る事が出来ず又それがあんまり見えすいたら私達はおびえなければならないかもしれないけれども文学が良い影響のおよぼされた時を想像すれば私は一寸首をふって微笑する事が出来る。呪われた影が文学によって人生の上にひろがりおしかぶさった時の事を思えば人の見えない四方の見えないものの中に入ってでもしまいたいほど――又より以上に恐れて苦しまなければならない。
 なぐさみ半分にする人ならば、
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「もっとやさしいぞうさない仕事があった
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