愛し又尊んで居る。
 美術も音楽も――
 まして文学は私が心中しかねないほど思って居るものである。
 多少の迷信さえ持ってこの文学を――広く云えば芸術を愛して居る私は、この頃身ぶるうほどの不愉快さに涙をこぼさなければならないほどいやなみっともない言葉を、尊い芸術のために聞かなければならない時がある。
 文壇にかなり知られて居る或る文学者は、
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「文学をするなんて云うのも仕事が割合にやさしいと云う事からでより以上にたやすくて仕事があるんならその方に行く」
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と云ったのを聞いた事がある。
 こんな言葉は人間の中にたった一人の人が云ったことではないけれ共私は眉をひそめてつばをはきかけてやりたい様にさえ思う。何と云う人間らしくない事だろう!
 どうしてそんないくじなしなんだろう!
 まっかになってげんこをにぎるつぎには、「どうしてまあそんなに私の愛して居る芸術を馬鹿にしてどろっ手でかき廻して呉れるんだい?」
 涙をこぼして足元を見ながら云う沈ずんだ暗い気持になって来る。
 もとより生活の苦しみなんかをチョンびりも知らない私が生活の波にさからっておぼれ
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