わらかい色は二人を美くしく包んで暖い空気は春のようにかおって居ます。旅人は安心した様にすやすやとね入りました。女はソーとその手を引きながらもなおその目をはなしませんでした。そして小さい声で、
女「ほんとうに美くしい人、これで私の心がわかるかしら」あこがれるような眼をしてそのかるくむすんだ、やわらかい唇にいかにも乙女らしくキッスしてそして見かえりがちに出て行きました。二人の夢はまどらかにむすばれて森のこま鳥の声と一所に夜があけました。かるい朝食をすまして二人は森に行きました。雪はすっかりやんで美くしい朝日にそれはそれは何とも云われないほど立派にかがやいて居ます。二人はその上をかるく歩みながらよっぽどあるきました。段々雪がまばらになってもうすっかり雪のない所に来ました。二人は青い草の中に足をのばしてこまどりの声をききながら歌をうたうような軽いしめやかな調子で話す女の物語をききました。その物語は、女の小さい時に森の中のくるみのすきなリスからきいたのだそうです。可愛い小さいお話でした。女は詩人の頸を白い手でしっかり巻いてしずかに波うつ胸によせながら何事か頬を赤めながら旅人のかおを見つめて居ます
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