上げました。女の目は絶えず詩人のかおにそそがれて居ました。
女「有難う」と旅人の手をとってそっと口によせました。かすかに身をふるわせながら、そのやさしい肩を両手で抱きながら、
女「どうしてこんなに美くしいんだろう」と云いました。詩人にはきこえませんでしたけれ共。此の女は始めて若いそうしてしかも美くしい男に会ったんですもの、不思議なほど美くしいと思ったのも無理ではありません。
女「もう疲れていらっしゃるでしょう、早くやすみましょう。私がこもり歌をうたってあげましょう、私の美くしい人」とほほ笑みました。
 美くしい旅の詩人は不思議な美くしい女に助けられてこの家に住む事になりました。二人は青草のようなじゅうたんをかるく靴のさきで押えて寝室に入りました。マッシロに美くしいベッドのわきには桃色の絹のおおいのかかったランプがついて四方にはうす紫の帳がたれこめて居りました。美くしい女は旅人をその上にねせて、自分はその頭を手で巻きながらかたわらの椅子に腰をかけて小さい清いほんとうに小川のささやきのような声で子守うたをうたいます。旅人はその胸の方にかおを向けてしずかに夢の国に入ろうとして居ます。桃色のや
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