お話しましょう。私はもとはすてごだったんです。あの向に一つ松が見えましょう、あすこに捨てられて居たんですの。そうするとネ一匹の大きなそれは立ぱな鹿が一匹来ましてネ、私をひろってこの家につれて来たんですの。それは私の四つの時でしたワ。それからそのしかはいろいろにそだてて呉れて彼の森に居るこま鳥に歌を習わせたり、川の流れに詩を習わせたり、野辺に咲く花に身のつくり方をおしえてもらったりして今日まで大きくなりましたの。それでその鹿は『お前は必[#「必」に「(ママ)」の注記]して私の生きて居る内人に会ってはならない若し会うと私が大変な目に合うから』といって外に出しませんでしたの。けれ共その鹿はもう三月前に死んでしまいましたの。それで私は一人でこうやって暮していますのよ」
[#ここで字下げ終わり]
詩人はとどろく胸をおさえてその話をききほれて居ました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
小「マア何と云うおもしろい話だろう。だから貴女はきっと人ではないでしょう。だけれ共私はいつまでもここに居ましょう。ネ、お姉さま」
[#ここで字下げ終わり]
お姉さまと小さく云って赤いかおをして女を見
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