。向うの山の手の一粒に見える所に日が落ちて詩人の黄金の毛は美くしくかがやき女の小指のさきは美くしくすき通って居ます。
女「もうかえりましょう。日も落ちましたワ」と空を見あげてうっとりとした声で云います。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
詩「ほんとうにネお姉さま、貴女のかげと私の影がまっくろになって頭の方は一所になっていますワ。私の心は今、何とも云われない美くしい思いがしています。どうぞも少しこうやっておいて下さいネ」
[#ここで字下げ終わり]
女「エエ、エエ、いくらでも。美くしい詩を私にきかせて下さい」と女はその美くしい想をやぶるまいとするようにそっとその手をにぎったまま、向うの山の上の方に目をやって、小さい口を少し開いて居る横顔を尊いマーブルの像でも見るような目をしてみています。旅人の口はかるく開いて夕づゝ[#「づゝ」に「(ママ)」の注記]を讚美のうたはまっかなハートからほとばしり出るようにうたわれました。情のたかまった若い十六にみたない詩人は此の世の人とも思われない女の胸によったまま手で胸を押えて目は上を見ながら美くしい美くしい声でうたって居ます。大きな目には一杯涙を
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