つまると美くしい文句を教えてくれる、それを書きとって行くと後から人声がする。誰かと思って見るとあの時の通りのなりをした森の女が立ってジーと見て居た、だまって私のわきに来て手をとって筆をはこばす夢の様な柔い気持になってされるままになって居ると美くしい文は泉の様にとばしり出て白い紙には美くしくインクの模様が書かれる。そしてその森の女は手を置いて自分の耳のはたで、
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『私の小さい美くしい人、まだ私をお覚え。今夜っきり、おお今夜っきりもうあいますまい、けれどもいつか、キットいつか、そうださようならおたっしゃで』
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と美くしいすごみのある声で云って見えなくなってしまった、それからのことは自分の一寸も知らない、そしてそれから私は今までねつづけてしまったのだ。不思議な森の女、彼の女は森で別れる時に何と云っただろう。
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『私の小さい美くしい人、この森の中の一人ぽっちな女をいつまでも忘れないで居てちょうだい』と云ったっけ。
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不思議だ、私は何だか気味がわるくなった。早くあっちに行って母っかさんに会ってローズにも会お
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