、ほんとうに」
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筆は益々かるく文は益々美くしく、白い手は段々早く走って少年の詩人の思は夜と一所にさえて行きます。しばらく立って見て居た母親も知らない間に来て知らない間に出て行きました。三時間立って時計が十二時をうった時又、母親はのぞきました。けれどもまだ灯の下で走るペンの音はやみませんでした。翌朝今日が向の山を出ると云う時に母親が詩人の部屋をのぞいた時は、机の上には白い紙にすきまなく文字のかかれたのが高くつんであって詩人はその間に安心したらしい顔つきでつよい朝日をよこがおにうけてかすかないびきをして居ました。母親はそうっと自分のもって居たやわらかい絹のショールをかけてつまさき立てて部屋を出ました。詩人が星の様な目を見開いた時にはもう台所から肉をむす湯気が立ちのぼって居る時でした。自分の体にかけられたショールを見それから昨夜の事から今までの事までを古い時によんで物語を人の話で思い出す時の様な気持で思い出しました。
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「私はローズと森から帰って来て、御飯をたべてここに来て、紙をのべてそれから一行書き出した時、耳のそばで森の女の通りな声で一寸
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