てふっと詩人は目をさましました、そして物おじをした様に女の胸にすがりつきました。そしてまだすっかり夢のさめない様な目ざしで神様の様な女の顔を見上げました。自分の身のまわりに百人の武士が守って居るより心づよい気がして。
 二人はそのまんまいつまでも居たい気がしました。けれどもつめたい夜の空気は薄著な二人の体につめたくあたります。三つ上の女は自分の大切な人に風を引かせてはと思ってやさしい声で云いました。
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女「もうかえりましょう。寒くなりましたもん、家でもまってるでしょう、ネまた明日来ればいいでしょうネ、サア、もうお月さまもあんなに高くなったんですもの」
[#ここで字下げ終わり]
 二人は月のさす小道を銀を引きのべた様な湖を後に家に向いました。森を出ると家々の灯はもうすっかりともされていかにも夏の夜らしい景色、二人は足をはやめてはじから三番目の灯の方に向いました。二人は戸口で、
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「さようなら、よいゆめを、又あしたネ」
[#ここで字下げ終わり]
と云い合って別れました。お母さんとお祖母さんはかえりのおそいのに、少しいやな気持
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