いました。白い紙はひるがえされて白い歯の間からは美くしいそして娘らしい声がころび出ました。その文句はみな年若な人の鵝ペンのさきになったもんでした。始めの声はゆるやかにそしてひくく、次第に月の光の銀色になるにつれて歌声もだんだんたかくそうしてすんで行きます。詩人はその形のいい頭を女の白いやわらかい胸によせて目をねむってその歌をききとれました、ほんとうに美くしい声です。胸のかるい鼓動の音は詩人の心の底までひびいて行く様にうっています。女の手は白い紙からはなれてその若い人の美くしい頸を巻きました。やがてうたの調子はかわって夢をさそう様な美くしいやさしい子守うたになりました。詩人は目をねむったまま深い夢に誘われてしまいました。月は高くのぼりました。女の顔と三つ下の人のかおとを美くしく気高くてらして絵にもかかれない様な美くしさ、女の歌はやんで手は前よりも一層強くくびを巻きました。女の瞳はおののいた様にそしていい勢にかがやいてこの美くしい人をどうかするものがあったならどうして呉れようと云う様に水の上から山の方まで見わたしました。湖の上には白金の波がくだけて美くしい音楽を奏でて居ます。夜風が身にしみ
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