何とも云えない美くしい神々しい色になって遠くに見えたし、もの置いた様な羊ももういつのまにか影をかくしてしまいました。細くしなやかな銀笛は赤い詩人の唇によせられました、白いペンをもつよりほかにしらないきゃしゃな十の指はその夕やみの中に動いて小さい金具の歌々からはゆるいなつかしい夕暮の空にふさわしい音がふるえながらわき出しました。吹き出した夕暮の風はローズの金黄色の毛と笛を吹きすます詩人の髪とを美くしくもつらして居ます。笛の音は遠く遠く、羊を追う牧童の胸をまでそそるようにどっしりとして夕暮の闇をはいて居る木の間をくぐって遠く遠く、そのすぐわきに足をのばして白い靴のさきを見つめながら笛に気をとられて居たローズの目は段々に上を見つめて又その目は下に落ちて段々色々な色に変って行く湖の上に目を落しました。詩人は目をねむって短くてそしてほそい銀の笛にたましいをとられたようになって吹いて居ます。折まわした曲の末は遠く向うの山のかげに吸い込まれて笛の音は休みました。
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ロ「ありがとう」
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 夢からさめた人のようにほほ笑みをうかべながら云
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