をのばして、そしてその柔な、うるおいのある頬を一寸小指のさきで突きました。そして又すばやく体をかくしてダリヤの色の中に身をうずめました。
ロ「オヤ、誰」若々しい声が窓の外にもれました。そしてその力のあるさとい目は赤い色の中にうずくまる小さいそして形のいい水色の体を見出しました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
ロ「お早う、そんなにして居て貴女のその美くしい水色の着物がそのいやな色の花の汁にそんでしまうと大変よ、早く出て来て私が今朝貴方のために二度もあるいたお礼をしてちょうだい」
詩「バア、お早う、夕べは失礼、おかげでいい夢を見ましの[#「しの」に「(ママ)」の注記]」
[#ここで字下げ終わり]
若い美くしい人は朝日に小指の先をすかせながらまぶしそうに手をかざして云いました。戸口は開かれて、まだゆるい着物を着て、桃色のリボンの帯を裾に引くまでして片手に青い表紙の小形の本をもって顔だけ出しました。細い形の体はスーと吸い込まれた様にかくれました。まもなくそのまどの中に美くしい笑声がもれました。一時間がたちました。また美くしい細い形は戸口にあらわれて、
ロ「キットネ」と云う声に
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