送られて自分の家の戸口に立ちました。
 二人は夕方から又向の山に行って歌をうたいましょうって約束したんです。それから夕方近くになるまで一人部屋で書いて居ました。時々窓をあけて新らしいすずしい空気を吸い込んで青い山や、紫の雲の影を見ながら又新らしくけずった鵝ペンに墨をふくめて書き綴けました。白い紙はみどり色のテーブルクロースをかけた、丈の高いいい形の矩形の上に雪の降った様にたまりました。それをかたはしからとじてよみかえしてそしてほほ笑みました。わりに早く夕方になりました。まだ日はすっかり落ちきれません、窓のわきのユーカリの葉がまっくろい化物の様な影を机の上に落して居ます。
詩「アア、おそくなると悪い、すぐ行こう、サゾ待って居らっしゃるだろう」と云ってそのまま庭つづきに出て行きました。手には白いかみとそして鉛筆をもって、
詩「ローズー、ローズ、まってたでしょう、行きましょう」窓の下で心地のいい声を上げました。
ロ「まってたの、早く行きましょう」机の上から何か小さい白い紙を取り上げました。二人のつり合った形のいい影は細い道をつたって森の中にかくれました。二人はなお遠く遠く歩きました。段々森の
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