には段々紅の色がみなぎり出しました。眼にはよろこびとおどろきに此の上もなく美くしくかがやいて居ます。女は美くしいとおったこえで「どうなすったの、もうおなおりになって」詩人は森の中に育った児のように、たまに村から出た女達のするようにその気高い姿を見あげ見下しました。けれ共さとい美くしい詩人の胸には若い人の心にふさわしい思い出がわき上りました。きっとそうだそうにちがいないと小さい腕を胸に組んで「有難う、雪の姫様。貴女は私が不断から雪をこのんで居るのでこうやってたすけて下さったのでしょう。ありがとう姫様」とふるえた小さい声で云って女の美くしい手の甲に唇をよせました。
女はかすかに身をふるわせながら「イイエイイエ、私はそんな者じゃあないんですの。ケドまア気がついてよかった。そうしてあなたはなぜこんな雪の日に一人旅をなさるの」「私は村から七里西の美くしい国に歌枕をさぐりに行くんです」「マア、そんな美くしい方があの美くしい国に行く、ほんとうに」と云ってその手を取ってだまってその美くしい瞳を見つめました。しばらく立って「行らっしゃい」美くしい女は立ち上りました。詩人はこのまままたつづいた旅をしたい
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