光をもって赤く、黄金色の毛は赤い帽子をもれてゆるく波をうってかたにかかって居ます。バラを一ひらつんで置いたような唇はキッとむすばれて時々かすかに歯をあらわして雪の詩をうたって居ます。若い旅人は若々しい情のある血のような詩をうたう人です。森の中に深く迷い入って困って居ながらも白銀のような粉雪を讚美するのを忘れませんでした。葉をふるいおとされて箒のようになって立って居る楢の木のしげみが段々まばらになって木こりのらしい大きながんじょうな靴のあとが見出されました。赤い唇は遠慮なくひらかれて「村に出た出た」と云いました。眼は一層大きく開かれて足元は定まって居ませんでした。「アア、村――村」小さいみどりの体は白い雪の中に一つ線をひきました。村に出た気のゆるみのためでしょう。けれ共、おこす人もなければなぐさめる人もありません。森から出た許の所、しかも雪の深い日ですもの。向うの遠い所から人が来ます。男じゃあありません。髪の長い美くしい白い着物の人です。スーとそばに来ました。そしてひざまずいて白いやさしい手で頭をかるくこすって青ざめた頬にべに色の頬をよせました。
若い幸多い詩人の目はひらかれました。頬
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