そうです事。私が若し女だったら、ネ、キットそうするでしょう。あこがれのあるやさしい心を持ったまま自分のすきな海か沼に入って死んでしまいましょう、その前にその男に会ってキッスしてもらってから。私ならキットそうするでしょう」と自分の身の上のように云いました。
女「それではネ、若しあなたをそれほどまでに思って居る人がすぐそばに居たら?」
詩「わかりませんワ。ほんとうに居るか居ないか知れないんですもの。あったと云って私はわからないんですもの」と、前ににげないそっけない事を云いました。女は情ない、たよりなげな顔をして両手を胸に交叉して云いました。
女「そんな御心、ソウ」と云ったきり何も云いませんでした。けれ共いつものようにうたをうたって胸によったまま詩をうたってかえりました。詩人は別に気にもとめませんけれ共女の顔には此の上もない愁の色がみなぎっています。片手を少年のうでによせてうつむき勝にかえっていつもの時間に「さようならよい夢を」と云って別れました。
詩人はすぐ床に入るが早いか夢に入りましたけれ共女は中々ねられませんでした。桃色のランプの影で細い頭をかかえてたえ入るような声で云いました。
女
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