した。かえりましょう」と云いました。詩人はだまって立ち上りました。二つの影は森の中に消えました。その夜のゆめもまどらかでした。けれども女は一度寝てから又起き上って長く長くのばした髪を指さきでいじりながらこんなことを云って又ねました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
女「いくらローズが何と云ってもだめだ。私は彼の美くしい若い詩人を愛しているんだもの。どんな事があってもだめだ、私はほんとうに」
[#ここで字下げ終わり]
翌日もその翌日も又その次の日も自分が前からのぞんでいたような美くしい日の暮し方をしました。一日に三つも四つも詩をうたいました。そのうちのどれもみな今までにないような美くしいのばかりでした。そこで二月くらしました。毎日、いろいろなめずらしい美くしい所許り見て、今日で二月になると云う日の夕今日も二人は森の中に居ました。夕日は美うあたりにかがやいて居た時でした。白い衣にマッカのルビーのブローチをして、水色のバンドをしめた女は若い詩人の頬に頬をよせて小さいふるえた声でささやくように云いました。
女「美くしい私の心の人、貴方は□□[#「□□」に「(二字分空白)」の注記
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