。母の親友であるマルシャル国手をジュネヴィエヴは自分を母にしてくれる人として選ぶのである。マルシャルはその申出を拒む。何故ならマルシャルは妻を愛しているから、と。後に、ジュネヴィエヴは母にそのことを話し、はじめて、母がマルシャルに或る期間心をひかれていたことがあったと知った。マルシャルが彼女を拒んだ心持の微妙なニュアンスを、ジュネヴィエヴは理解することが出来たのである。
アンネットとジュネヴィエヴとの間には、共通なものと全く別のものとがある。旧来の結婚の形式が偽善と心ならぬ犠牲、真実の愛の感情さえ殺すような重しを女にかけることに抗議する心持の上で、この二人は全く同腹の姉妹である。けれども年上であり、成熟した女性であるアンネットの肉体と精神との中には、既に感覚として、自覚される欲望として異性を愛し、抱擁しようとする熱情があるのであるが、若いジュネヴィエヴはこの点ですっかり違う。「私の肉体は少しも私の精神の脱線を諾《うけが》わなかったのです」そして、彼女はそういう自分の肉体の行儀よさに立腹したりした。現実の感覚を知らぬジュネヴィエヴは、非常に率直に、具体的な言葉で問題を出すが、情熱がさめ
前へ
次へ
全7ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング