未開の花
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)綯《な》い
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)栗のいが[#「いが」に傍点]ってどこにあるんだい。
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家中寝鎮まったものと思って足音を忍ばせ、そーッと階下へおりて行ったら、茶の間に灯がついていて、そこに従弟が一人中腰で茶を飲んでいた。どうしたの今時分まで、というと、鼠退治さ。栗のいが[#「いが」に傍点]ってどこにあるんだい。さア、私も知らないけど。そう答える私は元禄袖のどてら姿、従弟はその辺にあった膝掛けを洋服の上から羽織った恰好で、お茶を注ぎ、寝ようよ寝ようよと云いながらつい話が弾んで明方近くになってしまった。
若いサラリーマンである従弟の話の中に、この頃の若い女のひとで結婚はしたくないが子供だけは欲しいって云うのが随分あるねということがあった。或る気質の女のひとが男などと話しているときの一つの姿態としてそういう表現でものを云うようなことも少なくはないであろう。女のそういう時の本当の心持、うその心持の綯《な》い交る状態を寧ろ面白く思ってきいたのであった。
そのこ
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