いる金銭取引の憎むべき社会悪を摘発してから、フランスの社会は多くの推移を経験した。それにもかかわらず、結婚生活というものはその形式の本質の中に、アンネットの要求を必然ならしめるような社会的羈絆を女の肉体と精神との上になげかけることに於ては今日もまだ変っていない。その苦痛と抗議とには、言葉と身ぶりが違っていてもやはり日本のすべての女の感情が共に鳴っていると思われるからである。
 アンドレ・ジイドは、ロマン・ローランと大変ちがった描きぶりで女を描写する作家である。ロマン・ローランの描く女は、まざまざと感覚に迫る肉体をもっている。乱れたり、調えられたりする各々の息づかいと髪とをもっているのであるがジイドの作品の中で、女は余りはっきり体を見せず、多く内的過程によって描かれている。二つの作家は、二様の美と、卓抜を示しているのである。ジイドの描いたジュネヴィエヴという十八歳の娘は、(未完の告白)平俗偽善な小市民的父親の「良俗」に反抗し、抗議せずにいられない情熱から、自分の独立を、自分の不服従を、女性だけがなし得る出産という行為で、明らかにする欲求から結婚もせず、恋愛からでもなく、子供を持とうとする
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