である。
 始め、片町を見つける頃よりは、余程、貸家は出たらしい。一つは、あの頃の払底につけ込んで、郊外に少しでも土地を持って居る者は、ひどい苦面をしてでも、まるで小屋のような急造家屋を、矢鱈に並べた。当座こそは、いやでも他にないのだから仕方なく入った人も多くあったのだろう。然し、次第に調節がつき、物価が下落して来るにつれて、左様云う人々は、段々市内に戻って来たらしい。不便な処へ、盗難は保証されない。その上、可成、田舎らしくない金をとる家は、しめる、曲るで病気にもなりかねない。住む人に見すてられたような住宅は、目黒、上大崎辺に随分在ったらしい。広告などに出るようなのは、大抵地名を見ただけでも興味を持てない其近辺が多いのである。
 又暫く気を揉まなくてはなるまいとは、二人の覚悟したことであった。容易に、都合よい家などのあるものではない。
 どうせ、長く居る積りで越すなら、
 第一、此那俥も入らない処ではない場処、
 第二、此那下等な小供の騒しくない場所。
 そして、電車が、うるさくない程度で近くありたいと云うのが、我々の共通な希望であったのである。
 前の章に書き落したが、此辺の子供のひ
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