ぶらぶらと四辺を歩いた。
「――定めたらどうだね、明日内部を見て。」
 私も、知らず知らずもう一度大体の模様を見た。気が付かなかったが、表の建仁寺の処には、蔦が房々とまといついて居る。
「――定めましょうか」
「そうしよう。ね。家のこまこました処はいくらでも追々なおせるもの、あっちから見たら、樹の多い丈でも幾何いいか知れやしない。」
 他にも、懇望して居る人があると云うので、Aは気が気でないらしく見えた。全く位置を云えば、又と此位近所に見当ろうとは思えない。
 彼は、その晩も、牛込まで行った。翌日は、時間を繰り合わせて、内を見せて呉れる家主の細君を待ち合わせた。
 自分は、貴方の鑑定に信頼するから、どうぞ襖だけは気をつけて下さいと頼んだ。
 自分にとって、あの赧黄色い地に、黒でこまこまと唐草の描いてある唐紙ほど、いやなものはない。新らしい家ではとも角、古び、木の黒光るような小家に、あの襖が閉って居ると、陰気で、気味悪く、陰から、何かが出て来そうにさえ感じられる。
 若し襖がそれなら、きっと張換えて住むと云う誓言で、Aにまかせたのである。
 それ等の交渉の間、家主がプロフェッショナルでな
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