が、コンベンショナルな日本の庭らしい趣で据えられ、手洗台の石の下には、白と黒とぶちの大きな猫が、斜な日差しを受けて、踞って居る。
 乱暴に乱されては居ても、些か風情のある庭の作りが、我々の注意をひかずには居なかった。片町の家には只空地があるばかりで、我々が素人の好みで、ぽつぽつ植込んだ植木が僅かに潤いを与えて居る位である。
 無言のうちに少しなだめられて、二人は、ずっと、門傍の木戸から、奥に行って見た。此方にも鍵なりの地面があり、棕櫚や梧桐、楓らしいものなどが植って居る。
 彼方此方歩いて居るうちに、先ず樹木のあるのが私を悦ばせ始めた。屋根は仮令トタン葺きでも、家全体が古物でも、眺め、自然を感じる植物の多いのはよい。内部は、翌日の午後でなければ見られないことになって居た。
「どう?」
 自分は、手を入れて低く仕立てた八つ手の傍に立ってAに訊いた。
「どうだね?」
 彼が反問した。
「随分ひどいらしいけれども――樹だけはいいわね」
「手を入れればよくなるさ。どうせ、そう万事よいと云う処はない。第一此処からだと、学校までたった二三分で行けるもの――」
「――きめましょうか?」
 彼は、又、
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