く、丁寧に、又、親切気を持って居て呉れると云うことが、如何程我々をよろこばせたか判らない。
相当の家作持ちらしく、若い夫妻である彼等は、決して、近所で名を轟かす、大家の虎屋のようなものではないらしかった。
勿論虎屋と云っても、別に特別な悪行をしかけたこともなかったが、そう云う名の苟且《かりそめ》にもある者に対しての心持は、決して朗らかには行かない。
それがフランクに、友人として、種々のことを話したり、
「随分ぼろ家ですからね」
と、仮令金高は僅かでも、好意で引いたりして呉れたことは、真から二人に快感を与えた。
此から幾年か居る、その家を貸すものに、唯利害関係からではなく、真個に人の世の生きるらしい友情と好感とを以て接して行けると云うことは、特別、家主、店子の関係に於て嬉しく思われたのである。
幾度も本郷、牛込、青山を往復し、家は、遂に我々が借りられることになった。
大工を入れて、台所に明り窓をつけ、区切って風呂場となる処を拵え、濡縁を修繕させ、引越しの二三日前始めて、私は内の様子を見た。
南向の八畳、寝間によさそうな六畳、三畳と、玄関との間の四畳半。広告にはなくて、深い戸
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