かな婦人作家の上にこって玉をむすばせたともいうべきものであった。
 一葉は、一方に封建的なしきたり、人情をひきずりながら、急速に資本主義化してゆく当時の日本の社会層で、下づみにおかれている人々の男女関係、親子関係、稚な心の葛藤などを、紅葉・露伴の文脈をうけついだ雅俗折衷の文章で描き出した。曲線的な彼女の文体はままならぬ浮世に苦しみ反逆しながら、それをくちおしさ[#「くちおしさ」に傍点]としうらみ[#「うらみ」に傍点]として燃やす女のこころと生活の焔によって照らされ、それまでの婦人作家の誰も描き出すことのできなかった文学の世界をつくった。一葉の世界は旧く、しかしあたらしく、また旧さにたちかえって、そこに終結した。このことは彼女の全作品を通じてみられる興味ふかい歴史的要素である。彼女と半井桃水との、恋であって恋でなかったようないきさつに処した一葉の態度にも、この特徴はあらわれている。一葉の文学に独特なニュアンスとなって響いている旧いものは、とりもなおさず当時の庶民生活のあらゆるすみずみに生きて流れていた人民の真実であった。彼女の作中の人物たちは、心と身をうちかけてそのしがらみの中にもがいた
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