公子」などがもたれた。
これらの婦人文学者たちの教養は、花圃の内面世界よりも数歩前進してヨーロッパ文学の影響のもとにあったであろう。しかし、生活の現実において、彼女たちの文学は女としての日常のおもしの下にひしがれた。この人びとの文学への志は根気強い、いちずなものがあったにしろ、当時の社会環境の中で女の文学の仕事は、やはり余技の範囲にとどめられた。このことは、少くない作品をかいた大塚楠緒子の死後、作品集がのこされていないことにも語られている。田沢稲舟が山田美妙との恋愛事件に対して世間から蒙った非難に耐えなくて、自殺したことにもあらわれている。
生活のために職業として小説の創作に入った最初の婦人作家は、樋口一葉であった。一葉の苦しかった生活のいきさつは、ひろく知られている。「にごりえ」「たけくらべ」などは、古典として、今日に生命をつたえている。これらの独特な趣をもって完成されている抒情作品は、明治文学が自然主義の移入によって大きい変化をおこす直前、すでに過去のものになろうとしていた紅葉・露伴の硯友社文学のある面と、透谷・藤村などの『文学界』のロマンティシズムとが、一葉という一人の才能豊
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