。その意味で一葉の作品は、雅俗折衷の文体そのものによって旧い情感を支えながら、こんにちに生きのびる実感を保っているのである。

 短い翼[#「短い翼」はゴシック体](一九〇〇―一九一六)

『明星』が発刊されたのは、一九〇〇年のことであった。黒田清輝、岡田三郎助、青木繁、石井柏亭など日本の洋画の先駆をなした画家たちが、与謝野鉄幹を中心として「新詩社」を結成した。二年前に『文学界』が廃刊された。鉄幹は透谷、藤村などのロマンティック時代を、芸術至上主義の気よわなロマンティシズムであるとして、『明星』を彼のいわゆる「荒男神」のロマンティシズムに方向づけた。鉄幹のこのロマンティシズムの本質は、「支配する者のロマンティシズム」として認められている樗牛のロマンティシズムと同質のものであった。日本のロマンティシズムのこのような変貌のかげには、一八九四―一八九五の日清戦争で、日本が台湾・朝鮮の植民地所有者となり、賠償金三億円を得て産業革命が躍進させられたという社会事情がひそんでいる。
 一八九七年に鉄幹の詩集『天地玄黄』が、アジアにおける侵略者としての、日本の最初の勝利のうたい手としてあらわれた。堺の
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