、何ものにも保護されることのない無産の若い女性が、資本主義社会の中でその身にかぶらなければならないあらゆる混乱をきりぬけて、彼女も小池富美子となり一九四八年末『女子共産党員の手記』という短篇集を送り出した。「女の罰」「肝臓の話」「女子共産党員の手記」「墓標」。それらの作品には、彼女の生活環境と彼女自身のうちにある根深い封建的なものが、反抗と解放への激情と絡みあって、生のまま烈しく噴出している。暗く、重く、うごめく姿があるけれども、そこには、「人間は断じて自滅すべきものではない」という彼女の人民的なつよい生活力が燃えさかっている。「渇いている時に水などほしくないといったような嘘まで、わたしにはとても書けそうもないのです。」「煉瓦女工」の書かれたときも、小池富美子のモティーヴはそこにあった。「女だから特別にひまがなかったり、金がなく食べるものもたべられなかった苦しみをあんまり繰返したくないためには、」「私達はどんな思いをしても一切の生活の嘘とたたかい、勝利しよう。」そして、妻となり子供の母となって東北に生活している彼女は、もっといいものを沢山書いてゆきたいと骨折っている。
小池富美子が、
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