は、既成の人々の生活と文学との上に見られるギャップが、素朴なりに埋められている点に注目しなければならない。多面的な日常生活の困難ととりくみながら、家庭の主婦であり、小さい子供の母である早船ちよが、「峠」「二十枠」「糸の流れ」「季節の声」「公僕」など、次々に力作を発表しはじめている。早船ちよは、「峠」の抒情的作風からはやい歩調で成長してきて、取材の範囲をひろめながら日本の繊維産業とそこに使役されている婦人の労働についてはっきり労働階級の立場から書きはじめている。彼女の筆致はまだ粗く、人間像の内面へまで深く迫った形象化に不足する場合もある。しかし現実生活に根をおろして、階級的作家としての成長がつづけられるならば、この作家の力量はやがて少くない成果をもたらすであろう。
一九三九年ごろの軍需インフレーション時代、出版インフレといわれた豊田正子『綴方教室』小川正子『小島の春』などとともに、野沢富美子という一人の少女が『煉瓦女工』という短篇集をもって注目をひいた。
「煉瓦女工」は、荒々しく切なく、そしてあてどのない日本の下層生活を、その荒々しさのままの筆力で描き出して、一種の感銘を与えた。その後
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