当時、自然へのみずみずしい感応とある程度の社会性をもった取材との組合わされた「貧しき人々の群」は人道主義的なテーマとともに一つの新しい出現を意味した。野上彌生子・中條百合子などの生活感情と文学とは硯友社文学の影響から全くときはなされたものであった。

 渦潮[#「渦潮」はゴシック体](一九一八―一九三二年)

 一九一四年八月にはじめられた第一次ヨーロッパ大戦は一九一七年十一月に終った。この大戦の結果、世界にはじめてプロレタリアートの政権が樹立された。帝制ロシアはソヴェト同盟となった。ドイツ、オーストリー、ハンガリーなどの専制君主制は崩壊した。この世界史的な激動は日本にもデモクラシーの声をよびさまし、労働運動と無産階級の文化・文学運動をめざますこととなった。
 一九二三年九月の関東大震災は、この天災を大衆運動の抑圧のために利用した権力によって、社会主義者、朝鮮労働者の虐殺がおこなわれ『青鞜』に活躍した伊藤野枝は、大杉栄とともに憲兵に殺された。けれども、『種蒔く人』(一九二一年)によって芽ばえた無産階級の芸術運動は、その後、一歩一歩とおしすすめられてゆく社会主義理論の展開によって、経済・
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