とを書くような女は嫁にすることは困るということはまた別で、作品の上にはいいえられないが作者の上にはいっても差支えはない」と。
このようにして漱石が矛盾に足をとられ、過去の勇敢な婦人作家たちが自然発生的な自身の生活と文学の限界で解決することのできなかった婦人の社会的悪環境の問題として、有島武郎は「或る女」の女主人公葉子をとらえるまで前進した。しかし「或る女」において女主人公葉子は自分を有閑階級の腐敗に寄生する苦悩から救い出す社会的モメントを最後までとらえることができなかった。葉子とともに、作者有島武郎も自分自身生活と文学とを発展的に良心的インテリゲンチャとして成長させるための飛躍をなし得なかった。
中條(宮本)百合子は、一九一六年「貧しき人々の群」によって困難な婦人作家としての出発をした。少女の年齢にいたこの作者のおさなさはその作品に散見しているけれども、東北の寒村とそこに営まれている貧しい小作農民の生活についての観察、その村の地主の孫として経験された生活への省察などは、素朴ななりにリアルな生活感につらぬかれていた。婦人作家の作品といえば男女のいきさつのものがたりに限られていたような
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