た。この時期の進歩的な婦人の読者たちが書物にむかう気持は実になまなましい欲望をこめたものであった。彼女たちは、一冊の本を読むことで、そこからあることを知識として知ろうとしたばかりでなく、それを自身の生きる実力の一つとして摂取してゆこうとする意慾をもっていた。わかったばかりでなく、我が身にそえてそれを噛みしめ、判断し、影響として深くうけいれて、必然を目ざまされたら生活がそのことによって流れをかえることをおそれなかった。その意味で、この時代の一部の婦人の読者は、実に我ままでなかったと思う。意識しない伝統のおもりや歪みが、自分のなかでどんなに判断の現実の比重を狂わせているかをさえ心づかぬままの素朴な純真さで、彼女たちの善意が発露のみちを求めたのであった。
読書というものに向うそういう生活的な態度は、ちかごろ新しくふえた若い婦人の読者の間に、なにか形を変えつながれ貫いているだろうか。見かたによればやぼったく、しんから求めるもののある何かの感情で本が手にとられているのだろうか。
女学生たちが、文学書なんかの棚の前で示すこの頃の対商品、対消費物めいた態度については、ほとんどすべての人が憂いと嫌
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