の社会生活の全局から見れば、その潮先ははやくつよく進み出ているが、重くひろくくらい襞々をたたんだその裾は伝統のなかに引きすえられている実状から、営利の事業として出版をつづけてゆかれなくなった次第であったろう。
この時期に読者としての婦人もやはり複雑な実質をもったと思う。はやくつよく進み出した部分の婦人の読者たちは、とくに社会科学の面では広汎に男とおなじ程度のおなじものを読み、そのような読者としての立場から、婦人がこの社会にもっている現実の諸条件のさまざまを具体的に理解するようになり『女学雑誌』時代の男女平等の見解よりはすすんだ女性の社会的向上を念願するようになっていたと思う。言葉をかえていえば、婦人たちは、読者として男とひとしなみであったことから、かえってはっきりと、主観的にすすんでいるつもりの自分たち女性が、歴史の大局から見ればいかにふかい渾沌のうちにつながれているかという自身の偽りない実状を会得する可能をもったのであった。これは、読者として婦人のへた一つの画期的な意義であったと思う。高い山に登る力が発揮されてはじめて、歴史の谷あいの深さ、陰翳の濃さが婦人にとって理解されたのであっ
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