手勝手で、名誉心が強く、一葉の才気を憎らしがってお嬢さんらしい図々しさで押しつける。それに対して一葉は憤慨しています。向島のお茶の席のような所に歌の会があって、きれいな着物を着て行った。――その頃はいまと違ってそういう所へ行くには三枚重ねの縮緬の着物を着て振袖で車を並べて行ったもので、一葉も借着をして行く。やっと体裁を繕って、自分の生活や気持とは大変に離れた環境の中で風流らしい歌も詠《よ》んで、帰って来ると、自分の心を抑えることができないで憤慨する。日記の中で、そういう女の人達に混って食うに食えないような自分、着物さえも借着である、そして、お追従を云いながらあの人たちの中に入っていなければならないのか、馬鹿らしいことだ、口惜しいことだと憤慨しています。自分の働いて生きて行く女としての立場、それから自分のように努力もしないし、熱心に文学の仕事をするのでもないただの平凡な男が男であるばかりで役人になって――あの頃は役人万能の時代だったから、正四位とかけちくさい私どもにわかりもしないような位を貰って、立派な着物を着たり、金時計を持って――漱石の「猫」でも金時計を書いていますね、金時計が一つの
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