いるのです。
 ところで、近代になってからの婦人作家の立場、婦人の文学はどういうものであったか。樋口一葉をとって見ましょう。一葉は明治の初め、自然主義が起ろうとする頃、それに対抗して活溌な文芸批評などを行っていた森鴎外を先頭とし、若い島崎藤村その他によって紹介されたヨーロッパのロマンティシズムの影響をうけながら、一葉自身がもっていた日本風の昔気質のような気分――美しいけれども狭い、狭いけれどもやはり美しいという風な一つの境地をもった文学に完成しました。まだ深く封建的な眠りがのこっていて、しかし半分目覚めている気持がヨーロッパのロマンティシズムと大変うまく結合して、美しい「たけくらべ」という小説ができました。この作品をたとえば、昨夜の露が葉末についていて、太陽が輝き初めるとそれが非常に美しく光る、しかしそれは消えて行く露である、そういう風な美しさ、美しさとしては「たけくらべ」は完成しています。一葉も大変代表的な立派な作家という風に見られております。けれども、一葉の時代はまだ日本にジャーナリズムが僅かしか発達していませんでした。『新小説』だとか、春陽堂から出ている『文芸倶楽部』とか――後に
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