て行って、深くなって、自分の子供の時はお母さんにおぶさって、こうだった、と子供の時の想い出さえも拡がります。ものを書くということは非常に面白いことだと思う。私どものいろいろな経験がただその時だけで過ぎてしまって、紙鉄砲みたいに或る一つの所を向うへ出てしまえばお終いであるなら、人生はあまりに詰らない。どんな苦労したとて甲斐がない。嬉しいことも甲斐がない。嬉しいこと腹の立つこと、すべてこれをもう一遍心の中へおき直して見ることは人生を二重に生きることになります。一生が五十年とすれば百年生きることだと立体的に考えることができます。またその時代にある女或は男が或る歴史的な条件の中でどういう風に生きて来たかという一つの時代まで生き切ることが出来ます。私どもの命はたった一遍です。しかもたった一遍しかない命を私どもはあれだけ怖い空襲などでやっと拾って来ているのです。しかもいまのように食えないとき随分骨を折って食べて生活しています。この命は値打が高い。決して一遍きり、スフみたいに使ったら棄てるなんて命じゃない、繰返し繰返し生きて行かなければなりません。そのためには私どもは立体的に生きるしかありません。立
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