った所謂模範生型の怜悧さがここに発露しているのである。
桃水が金と女にだらしないと悪評を蒙っていたことは事実であったらしい。けれども、一葉に対しては、ある程度の雰囲気をかもしながら、それ以上のことはなく、一葉が愈々《いよいよ》最後の訪問をしたときなどにも、一葉に結婚をすすめている。「今のうき名しばしきゆるとも」二人が生涯一人でいたりすれば「口清うこそ云へ何とも知れた物ならず」と云われるだろう。「お前様嫁入りし給ひてのち、我一人にてあらんとも、哀れ不びんや、女はちかひをも破りたらめど男は操を守りて生涯かくてあるよなどはよもいふ人も候はじとてはゝと打笑ふ」これらの言葉や俤も一葉の心に忘れがたいものとして残されたろう。
桃水と交際を絶ってから、はじめて一葉が自分の心持を恋と知って、悩み、育ってゆく過程を、今井邦子はその人らしい抒情で「樋口一葉」のうちに辿っている。それと反対に、平塚らいてうが、大正二年出版の『円窓より』の中で「彼女の生涯は女の理想(彼女自身の認めた)のため、親兄弟のために自己を殺したもの。彼女の生涯は否定の価値である」と云っているのもその時代のその人らしく面白い。今日の第
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