。左翼の運動をしている良人が、原因のはっきりしない嫌疑で、くりかえし検挙され、三度目には逃亡した。その身代りに警察にとめられた妻である私が、その逃亡に加担していたばかりでなく、その警察の特高部長が職責上、逃亡を胡魔化そうとした、それにも参画しているというので益々虐待されながら拘留されている。逃亡した良人は、やがて十五日めに自首して来る。「私が捕えられたと知っては、必ず彼がそうするだろうことを私は前から信じていた。またそうも云った。『己惚れてやがる。この女《あま》め』と殴られたこともあったが、やっぱり、私が手綱を握っていることは、たしかだった」そして、「良人が出て来ずにはすまなかった口惜しさと安堵とで、思うさま泣けた」作者のこころもちで終っている。
日本の治安維持法のひどさは、言語に絶していた。その犠牲の広汎であることは、戦争の犠牲の広汎なのと匹敵した。日本の文学は戦争と治安維持法のために、旧い野蛮な絶対制の権力のために、蹂躙されつくした。今日において、きのうの日本の社会と文化を語る文学作品として、寧ろ、この歴史的時期が真剣にとりあげられなさすぎるのは、奇異な心持さえする。作者たちは、
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