独自の芸術理論というものはもたなかったところにある。雑誌『新潮』を中心としたこれらの作家たちは共同して、当時プロレタリア文学が問題として提起していた世界観の問題、文学の社会効用の問題、作品の内容が形式を決定する、という内容と形式についての論などに反対し、これらの束縛、圧迫から解放された新興の芸術をうち立てようとしたのであった。けれども、当時のプロレタリア文学の諸問題に反対し、それを否定するという立場だけで貫かれていた作家たちの現実に行った文学活動は各人各様で、かつての新感覚派の作家たちが、ドイツの表現派まがいの奇抜さで束の間の好奇心を刺戟した、その目新しさも生じなかった。
 プロレタリア文学運動も高まるだけの必然をもっていた当時の日本の社会的な感覚の目ざめに動かされて、新感覚派に属していた片岡鉄兵が、プロレタリア文学にうつり「綾里村快挙録」という彼の代表的農民小説を書いたばかりではなかった。ドイツ文学の教師から出発して人道主義風の作品を書いていた山本有三が、彼の文学経歴の中で社会的意味の大きい「波」「風」「女の一生」等を生み出したことも記憶されるし、上司小剣が「東京」という大長篇を思い
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