対する社会の関心は高潮に達した時期であった。『太陽』と『中央公論』とが婦人問題に特輯号を出した。『中央公論』のその号に、須磨子は「人形の家」を上演した感想と別に、「雌蝶」という短篇をのせている。幼い日の思い出物語であるが、親戚の御婚礼の日、雌蝶の役になったかつみという女の子が其の日雄蝶の役になった仙台平の袴の男の児に淡い魅力を感じ、はにかみと興味とをたがいちがいの稚い感情でその男の子のまわりに近より遠のく風情など、単純ではあるけれどもなかなか厚みと伸びと濃やかさのある筆致で書かれている。
同じ年の六月、早稲田文学に「店の人」という須磨子の短篇がある。「雌蝶」よりはいくらか粗くて靭い筆致で、久江という「細かい縞の羽織に襟のかからない着物をグッと首に巻きつけて着て、帯の間からチラチラくさりの見えるだけが飾りの束髪頭」の若い女性が、義兄の菓子店へ遊びに来て、帳場で本を読みながら店番をしてやったりしている。お客がものを買ってゆくたびに店のものは「ありがとう」というのだけれど、久江はその云いかたを我知らずいろいろ観察したり研究したりしていて、一人の心持よい女客に自分が菓子を売ってやってのかえり
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