だ。」「自分の内臓を噛み砕いてでもやりたい程の口惜しさばかりはあってもみのるは何を為ることも出来なかった。みのるは矢っ張りこの力のない男の手で養ってもらわなければならなかった。」こういうみのるが、それを書かなければ「別れてしまうばかりさ」と脅す男の眼に見張られながら「書きさえすればいい?」「書くわ。仕方がないもの」と涙をうかべつつ、気のすすまない懸賞の応募作品を書きあげる。これが「あきらめ」の生まれた、背後の現実生活の絵であった。
この小説の当選は、当座の経済の苦しさから義男とみのるとを救ったけれども、義男の精神生活は立ち直れず、その小説を書かせた自分の力を恩にきせるばかりで、それから先にきりひらいてゆく努力の道についてはみのるに何も与えるものをもっていなかった。「みのるは、自分の力を自分で見付けて動きだした」「みのるを支配するものは義男でなくなった。みのるを支配するものは、初めてみのる自身の力となって来た。」
作家としての田村俊子は、現実に其の道を歩いたのであった。そして、婦人作家として、文学の上にも経済の上にも独立した。けれども「木乃伊の口紅」の中で、自身を支配するものは自分の
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