戯れめいたいきさつを義兄との間に生む気分。そういうものも作者は自身の濃厚な気分をそこに絡めて描き出しているのである。「あきらめ」につづいて、「誓言」「女作者」「木乃伊の口紅」「炮烙の刑」と進むにつれ、田村俊子の気質と作品とは、益々あますところなく当時のロマンティックな文学の潮流に谺《こだま》しながら、その流れのなかでも、まことに際だった一筋の赤い糸となって行った。官能を描く筆は執拗と頽廃の色を重ねつつ「女の前にだけは負けまいとする男の見栄と、男の前にだけ負けまいとする女の意地」とが、芸術上の張り合いの中で、逼迫した日常生活の気分の齟齬の間で、苦しく悶え合う姿をおおうところなく描いた。それらの作品が、当時にあっていかに独特、それでいて共感と刺戟を与える存在であったかは今日でも尚十分に推察出来る。「木乃伊の口紅」は、そういう意味で、血のしたたるような作品であると思う。義男という創作力を喪った男が「自分一人の力だけでは到底持ちきれない生活の苦しさから女をその手から弾きだそう弾きだそうと考えている中を、こうして縋りついていなければならない自分というものを考えた時、みのるの眼には又新しい涙が浮ん
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