松魚と結婚する迄の俊子は久米八と同座したり川上貞奴の許に出入りしたりして女優生活を送りながら、新しい時代の文学の空気の中に生きていたのであった。「あきらめ」という小説は、選者であった抱月も云っているように、その一篇のなかにこの作者のあらゆる資質の芽と浅草蔵前の「昔の札差」という家に育った境遇の色どりがうちこまれている点で、興味ふかい作品である。白絽の襟を襟止《ブローチ》でとめ、重ね草履をはきお包みを片手にかかえながら、片手にもった扇子を唇に当てがって歩くという気分の女学生。その脚本が好評で上演されるようになったら、学校から悶着を出されたというような、当時の女子大学生の富枝をめぐって、複雑な下町風の人事のあや。芸者や踊の師匠の明暮の光景あれこれ。女優生活の裏や表までが、自然主義の作風に近い平面な組立ながら、耽美的な、又官能的な都会人の気分をこまかに追って描かれているのが「あきらめ」であった。女学生同士がお姉様、妹という呼びかたで示しあうのが流行であった一種独特の感傷的な愛着。姉さんはそうやって女子大学に行っているのに、妹は芸者屋へ養女になっていて、早熟な、その社会では習俗となっている恋の
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