い。作家としての露伴は、女性に対して、衷心になかなか優しい思いをもっていて、昔一葉が「たけくらべ」などを書いて、名声喧しかった頃、小石川の家を訪ねたとき、一葉に向って、早くお婆さんにおなんなさい、と云い、しかしそうだったらやっぱり寂しいだろうなどと云ったということが一葉の日記にしるされている。露伴は若い俊子を、自分の若き日の思い出の中に生きている一葉と全く切りはなして眺め得ただろうか。或る年の春、師匠露伴のくれた菫の小さい花束に、やさしい敬慕の思いをよせるような稚い淡い心持のなかで、露英も二三年は、一葉まがいの文章でいくつかの作品を書いた。この人は才分ある人なれども、斯の如きものを書くは気の毒なりと鏡花が、評したというのは、この時代のことであった。
やがて、そろそろ二十を超えようとする生活力の旺盛な俊子を新しい時代と新しい芸術の香りが動かしはじめた。彼女のぐるりにめぐらされている露伴の垣が彼女を苦しめ、自分のこれまでの作風にも嫌悪を感じさせるようになった。芸術の上で道を誤っていると感じて、毎日派文士劇の女優となったのは三十九年のことである。二十四のとき、当時米国から帰朝した同門の田村
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