の心のなかにとらえなかったばかりでなく、漱石のあらゆる他の作品のなかに欠けている。初期の作品で、「草枕」の女主人公や例えば「虞美人草」の藤尾のような女と、素直に兄の導くままの運命に入って行くおとなしい娘とが対立的に描かれていた漱石の女の世界は、「明暗」の複雑さに進んで、そこには権謀と小細工に富んだ女の一面が、色濃く追加されているけれども、女自身が自身の天真さを求める天真な熱意で周囲の習俗にぶつかって行くというリアルな女の姿は一つも見出されないのである。
「作家としての女子」という感想の中で、芸術の分野では性別が消えると簡単に云われている半面に、女が小説をかいたりするのは近代自意識の目ざめによる男への競争心と云われているところも、漱石の場合としては、やはり、女の内面的な心情の必然のありように対する見かたの不十分さと密接に結びついている。平常の女にこそ女のまことの姿があることをリアリストとしてつかんでいない。
世すぎのための文学の仕事という意味で、職業としての自覚をはっきり持って小説をかきはじめた一葉にしろ、創作の衝動を男への競争として意識しなかった。女としての自身の境遇、そこを生きてゆ
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