良人である自分にちっとも天真な情感を表現しようとしない他処他処しい妻。義弟にあたる二郎には自然な暖みをこぼして応対するように見える妻。兄には、そういう女の心が分らない。「自分は女の容貌に満足する人を見ると羨ましい。女の肉に満足する人を見ても羨ましい。自分はどうあっても女の霊というか魂というか、所謂スピリットを攫まなければ満足が出来ない」と云ったイギリスの作家、ジョウジ・メレディスに同感をもつ兄の苦悩は、「おれが霊も魂も所謂スピリットも攫まない女と結婚している事丈は慥かだ」という自覚にある。兄は弟にたのんで、わざわざ妻を小旅行に誘い出してその心持をきいて貰うという細工までするのであるが、夫妻の心持が打開されるような結果は何も齎らされない。
 愛情の純粋さということに対しては、無力である習俗的な結婚の法律上の効力を懐疑する夫は、妻と弟との自覚されていない感情への猜疑を高め、兄は自殺しかねない精神状態となって来る。そこを親友が旅行に連れ出して、やや感情の均衡をとり戻させるということで事件は当面の終りをつげている。小説として「行人」のテーマは「何んな人の所へ行こうと嫁に行けば、女は夫のために邪
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