て小説に筆を染むる者のあるのは、勿論近代自意識に伴う競争心から来たので、多くは模倣でありましょう――尤も男子にだって其は免れないが――要するにまだ/\個性を発揮したものは無いだろうと思われる。」と結んでいるのである。
 或る意味では当時の知識人の常識の代表者のようでもあった漱石が、その進歩性として、学問や職業の部面では男女の性別や境遇の相異が消えるべきものだとしている点、所謂女らしさを要求する俗見に反対している点などでは、明らかに女の社会的な活動の可能をより広い方向において受け入れ認めようとしているのである。けれども、同時にいかにも当時の社会感情らしい矛盾もあって、観念の上では素朴に男女同権を承認しつつ、実際に処して、嫁、又は妻という位置で女を見る場合には躊躇なく旧套の目やすへ置きかえている態度は面白い。
 女が小説をかくからと云って、その観察は何《いず》れも衣裳や髪容の描写にとどまらず題材としては男と同じものを扱ってよいと云うことにつづいて、すぐ男子の心理状態の解剖をいうところへ飛躍して云われているところも、男女の対立の範囲で婦人の問題が観られていた当時らしい考えかただと思える。
 
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