を見廻っている婆が、いつものように手拭地のチャンチャン一枚で向うから来た。
 私は早速婆にたのんだ。そして、初めて甚助の家へ入って見たのである。そこいら中は思ったより穢く臭かった。
 私が戸口の所に立って、内の様子を眺めていると、婆は、けげんな顔をして、ジロジロ私の方ばかり見ている子供達に、元気の好い声で種々《いろいろ》世話を焼いてやっている。
「ちゃんは今日も野良さ行ったんけ? おとなしく留守をしてろよ。また鉄砲玉(駄菓子)買ってくれっかんな」
 そして黙り返ったまま、婆が何と云おうが返事をしようともしない子供達に、何か云わせようとしきりに骨を折っても、頑固な彼等はただ、臆面のない凝視をつづけているばかりで一言も口をあこうともしない。皆が、憎いような眼をして私ばかり見ているので、だんだん私は来ちゃあ悪かったのかしらんというような心持になって来た。
 婆は、しきりに気の毒がってかれこれとりなしに掛《かか》っても、子供等は一向そんなことには頓着なく婆がいわゆる、「しょうし(恥し)がっていますんだ」という沈黙を続けている。
 私には、なぜ子供等がこんなに黙り返っているのかいっこう訳が分らな
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