かった。それで、幾分蹴落されるような心持になりながらも、しいて微笑をしながら、
「父さんや母さんは? 淋しいだろう?」
と、一番大きい子に云うと、いつの間にか私の後に廻っていた中の子が耳の裂けそうな声で、
「ワーッ!」
とはやし立てた。
私は非常に驚いたと同時に、胸がムカムカするほど不愉快を感じた。けれども、もう一度私は繰返してみた。
「淋しいだろうね、だあれもいないで」
腹は立ったけれども、私にはまだ彼等を憫《あわれ》むくらいの余裕はあった。
年中貧しい暮しをして、みじめに育っている子に、優しい言葉の一つもかけて遣りたかったのだ。が、それにも拘らず、
「おめえの世話にはなんねえぞーッ」
と云う、思いがけない怒罵《どば》の声が、私の魂を動顛させる鋭さで投げつけられたのである。
私は目の奥がクラクラするように感じた。
一瞬間に、今まであった総てのことが皆嘘だったような気もする。
私は、何をどうすることも出来ずにただ立っていた。けれども、心が少し静まると、ジイッとしていられないほどに不可解な憤怒や羞恥が激しく湧き立って、非常に不調和な感情の騒乱は、肉体的の痛みのように、苦しい心
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