持にさせるのであった。
 私は寛容でなければならない。彼等から一歩立ち勝った者の持つ落着きを保ちつづけようとする虚栄心が臆病になりきった心を鞭撻した。けれども空虚になったような頭には何を判断する力もなくなり、歯がガチガチと鳴っている。
 この意外な有様に、婆はすっかりとちってしまった。そして子供の手をグングン引っぱって下に坐らせながら私には、詫びるような眼差しで、
「行きますっぺなあ、おめえ様。礼儀もなんも知んねえで、はあどうも」
と立ち上った。私も、もう帰るだけだと思った。
 婆の先に立って子供等に背を向けたとき、私は自分の上に注がれている憎しみに満ちた眼を思い、野獣のような彼等の前に、どれほど私は臆病に弱く醜く立ち去ろうとしているのかと思うと、このまま消え失せてしまいたいほどの恥しさに、火のような涙が瞼一杯に差しぐんで来たのである。
 私はしおしおと杉並木の路を歩いていた。誰に顔を見られるのも、口を利かれるのも堪らない心持でのろのろと足を運んでいると、いきなり後から唸りを立てて飛んで来た小石が、私の足元で弾んで、コロコロと傍の草中へ転がり込んでしまった。
 シュウという音が鼓膜を打
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